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500枚入りコピー用紙でイラスト10000枚目指すブログ

ただ趣味で描いていた絵師が本職を目指します。内容はお絵かき・雑記。あと社会人リタイアしてしまった自分の新しい生き方とか?です。現在ラクガキ10000という途方もない武者修行中。この経験が絵を描き始めた人の参考になるように、もしくは暇つぶしのお供に、そうなってくれると嬉しいです。

雷の大漁旗製作秘話(仮)

お絵かきしましょ? SS(ショートストーリー)

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 司令官!今年はこの大漁旗で頑張ってね!

 

 

 

 雷(いかづち。下段右)は最近不服である。錬度(レベル)こそ前線組の60に到達したものの、やはり主力戦力は吹雪(錬度107)や時雨(錬度93)を中心とした上位5名くらいが実際の現状である。別に司令官に対して文句を言いたいわけではないのだが、周りから言われる『歩く奉公精神』を自分でも自覚してしまう以上、手伝えそうなこと、貢献できそうなことにはいつもアンテナ、もとい電探をはっていた。司令官には、お手伝いはありがたいがもっと自分を大事にしなさい、と注意されることもあるのだが、残念ながらこれは自分の性分なのである。

 

 今日は午後から非番。国内南方の岩川では梅雨の真っ只中で前日の雨のせいか非常に湿気を感じる。長袖セーラーの暁型なのでこれからの季節は結構つらいものがあり、せっかくの非番で体調を崩すのはとてももったいないので、今は部屋着のノースリーブシャツを着ることにした。とはいえそれでも癒えることはなく、このまま部屋に篭っているとそろそろ頭にキノコが生えてきそうな気がしたので、間宮券(戦闘最優秀戦果を出した者に渡される券。甘味処『間宮』にて一枚に対し料理一品注文できる)を一枚握り締めて部屋から脱出した。部屋よりも少し空調が整えられている談話室でも良かったのだが、さっき覗いたら誰もいなかったのである。

 

 

 『間宮』にて抹茶アイスクリーム(白玉つき粒餡子マシマシ)を食べて身体の体温が下がっていく快感を感じながら、こんなにゆっくりしていていいのかしらと日本人特有の発想を頭に浮かべ現在に至る。一つ隣に陽炎ちゃん(陽炎型一番艦、下段真ん中)がイタリアラムネ(戦艦リットリオさん監修の試作品)を飲みながら一息ついていて、今15人以上の妹を抱えるこの人ならなにかアイデアがもらえるかもと、やや虚空に投げかけるように話しかけた。

  

 余談ではあるが、吹雪も『特型』という括りでは自分も含め15人の妹を抱えている存在ではある。しかし平常時第一秘書艦という立場上、あまり悩みを増やすのは良くないのかもなあと思っていた。司令官が一人に仕事を集中しないように注意は払ってはいるけど、あの子は抱え込むからなあ……。

 

 

 

 

「ねえ……、もっと司令官に頼られたいのだけどどうしたらいいかしら?」

 

陽炎

「さっすがねえ……。あまり気を配りすぎると身体持たないわよ?耳にたこができるぐらい言われてるだろうけど」

 

「あははは。諦めて。これ自分の性分だから。」

 

陽炎

「知ってる。……そういえば、雷ちゃん前に横断幕だったか旗だったか、作ったことあったじゃない?ほら、近隣漁港と共同制作したやつ。もしかしたら、また今年も秋刀魚漁あるかもねー。」

 

 昨年の晩秋、基地近海の漁港および海域を関係者と協力して集中的に護衛せよという伝聞が大本営からあった。護衛と漁業の協力が終わった後に、収穫した秋刀魚を少し分けてもらうことから基地内で『岩川基地、秋の秋刀魚祭り』と言われていたらしい。

 

「ああ、大漁旗ね。飾って満足そうに眺める司令官見ててとても嬉しかったわ。……あ、そうだ!今年も今から準備しましょう!」

 

 雷はいつも『善は急げ』主義だ。

 

陽炎

「うーん。うちら陽炎型も親潮が参戦してまずまずの結果に終わったからねえー。後一歩だったけど…。今少し落ち着いて……うん?親潮?」

 

「さてさて、今年はどんな絵にしようかなー。」

 

陽炎

「今思いついたんだけどさー……、太平洋側の海流に『親潮』と『黒潮』があるのよ。で、その二つの海流がぶつかった所ってとっても漁が捗るんだって。」

 

「へー。ぶつかる、ねー……」 

 

 

 

 しばしの沈黙。間宮さんがお玉をかき回す音。湿気に抗うような空調の唸り声。遠くでかえるの鳴き声が聞こえる気がした。

 

 暑さに反応した身体によって口の中にアイスクリームを追加したところで、その冷たさからか、雷の頭に稲妻が走る。

 

 

 

雷・陽炎「「それだ!」」

 

 

 拍子にラムネを倒してアワアワ(ラムネだけに)している陽炎のとなりで、雷は今思いついたものを頭の中で再現する。今年の大漁旗黒潮ちゃん親潮ちゃんを描けばいいんじゃない!その横顔は、やっぱり甘味は頭の栄養になるんだなあと深く実感したようだ。

 

 しかしこの子も無鉄砲ではない。すぐさま最大の弱点に突き当る。

 

「でもどうしよう。私、人なんて描けないわ」 

 

雷は簡単な絵なら大丈夫だが、本格的な絵もしくはイラストを描いた経験がまったくない。確かに電も掛け軸を担当したことはあったが、あれは単に『!すでのな』って描いただけだし、この基地内に絵をかける人って……。

 

陽炎

「絵だったら、適任がいるじゃない?」

 

 おそらく陽炎の頭の中にも同じ人物が浮かび上がったようだ。

 

 先程も言ったとおり、雷は『善は急げ』主義。陽炎もその動きに付き合ってくれるようで、二人は揃って立ち上がる。返却棚に器と瓶を置いてむさくるしい湿気の中、意中の人物に会いに外へ踏み出す。

 

 

ーーーーーーーーーー 

 

 

 岩川基地、駆逐艦寮第二棟。4階建てのこの建物の部屋は六畳ほどの狭い部屋だが、一人一部屋振り分けられるという点においてはなかなか高評価らしい。艦娘とはいえ一人の女の子なのだからプライバシーの確保は必要だなということで、もともとあった建物を一度取り壊して新しく建て直したそうだ。ウチの男性司令官は変なところで女子力を発揮する。

 

 その一室で雷と陽炎は、先程考え至ったことを部屋の主に話した。インクの匂いが少し漂い、他の子の部屋よりも見慣れない機材が多い部屋の主は、少し唖然とした表情をした後に右眉を指で少し掻く(陽炎曰く悩んでいる時の癖だそうだ)。

 

 

秋雲(下段左)

「よりにもよって……、今か~……」

 

 

 主は下着姿のまま回転いすの上に胡坐をかき、少しうなだれるようにしてため息をつく。周りの子よりも少しいいスタイルが目に付くが、今は置いておく事にした。

 

「去年、司令官だいぶ苦労したようなのよ。その後の冬季期間限定作戦が予想以上に小規模だったから良かったけど、それは今年も同じとは限らないでしょ?現実的なことは出来ないかもしれないけど、せめて験(げん)をかつげるようなモノがあったほうが気持ち的にも楽になれるだろうし……」

 

 お願いします!と合唱する平常時第四秘書艦を見た後、秋雲は陽炎型の長女に助けを請う眼差しを送るが、予想通り少しあきれたような笑顔を返されてしまった。想定の範囲内の反応である。

 

秋雲

「んあ~、気持ちは分からんでもないよ?あの時期は任務も集中してたし、もらった秋刀魚美味しかったし。たぶん提督も漁港関係者と綿密なやり取りをやってたからこそ海上防衛も、そのあとの漁の協力もスムーズに出来たこともあるだろうし……」

 

「ね?ね?ね!? だからこそ、今年はもっと負担を軽くしてあげたいの!せめて精神的なものであっても。ね!?」

 

 陽炎が私たち漁船じゃないんだけどなあ…とひとりごちるのが聞こえたがそれは聞かなかったことにして、雷はさらに一歩前にズイと出てもう一度合唱する。ところが、懇親のお願いもむなしく、秋雲から帰ってきた返事は芳しくない。

 

秋雲

「いやーしかしね?この秋雲さんもいま忙しくてね、八月に向けた別件の絵を描かにゃあいけないのよ。お世話になってる人たちだからこそ、しっかりいいモノ描いてあげたいのよ。」

 

 雷は、秋雲が毎年夏と冬に首都のほうで絵の交流をしていることを知っていた。『おーたむなんとか』という名前を自分につけて活動しているらしいが、実際のところ良く分からない。

 

 絵を描くのは大変だ。そのことは雷も去年経験している。秋雲ほどではないが完成した直後は半日疲れで寝てしまったくらいである(もちろん司令官に苦言をもらったのは言うまでもない)。

 

陽炎

「まだ六月半ばじゃない。そんなに今修羅場なの?」

 

さすがに居たたまれなくなったのか陽炎が助け舟を出すが、秋雲は少しストレッチをしながら反論した。

 

秋雲

「そうもいかないんですよ姉さん。確かに日数的に時間はあるけど、それも計算のうち。いつどこで描き忘れ塗り忘れが見つかるかもしれないから、それを踏まえて計画立ててるんです。油断ならんのです。慢心、ダメ絶対」

 

陽炎

「ですよね~……」

 

 あっさり引き下がるのは陽炎もこのことを知っているからである。この数ヶ月の秋雲は食べる量と目の下のクマで大体状況が理解できる。一人の姉として末っ子の体調は気にかけて時々注意もするのだが、この子の事情があるのもまた確か。育ってしまった職人魂は簡単には揺るがない。

 

 

 そこまできてさすがの雷も察したのか身を引いた。少しとはいえ事情を知るからこそ押すに押せない。

 

「う~~~~ん、そうよね~。仕方ない、か……。」

 

 汗が一筋流れるその表情は別の手段を考えているのと少し予想外の事態に戸惑う感状が読み取れ、眉間に薄く出た皺は、さっき摂取した糖質を脳に総動員させて別手段を考えていることの現われなのであろう。

 

 すると、今度はその表情を見て居たたまれなくなったのか、秋雲が切り出した。

 

 

秋雲

「まあ、協力できないけどさ、どんなもの作ろうとしてたのか一応教えてみなよ。描けないけど、アドバイスは出来るかもしれないよ?」

 

 その言葉を聴いた瞬間雷の顔に明るさが少しばかり戻る。絵の経験が深い人の助言である。役に立たないわけが無い。藁にもすがるにはまだ早いが、アドバイスをもらえるだけでも十分なので、早速メモ帳一枚剥がし、頭の中にぼんやり浮かんでいた様子を紙に描きながら説明した。

 

 

 

 その説明を受けた瞬間、秋雲の目が絵描きの目ではなく『同人作家』の目に変わったことを、あまり知らない雷はその変化に気づかなかった。雷よりも秋雲の事情を知っているとはいえ、さすがの陽炎もその変化に気づくはずも無い。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 しかし、事態は雷の思惑を、いい意味で大きく覆した。

 

 秋雲が4日で黒潮親潮の絵を完成させたのである。

 

 さてどうやって黒潮親潮を表現しようかと頭を捻り続けて4日目、突然部屋に秋雲が殴りこみ、どうだ、これで文句無いだろうと言わんばかりの表情を見せながら絵を見せに来たのである。

 

 少々くっつきすぎではないかという疑問もあったが、産みの苦しみをはじめて経験していた雷にとってこれほどうれしいことは無い。報酬扱いとして貯めていた間宮券4枚を渡し、

 

秋雲

「まいどあり~。次回もこの秋雲さんをよろしくね」

 

と少しふらふらしながら去っていく秋雲を見ながら、にんまりともらった作品を眺めてみる。

 

 

「うーん、やっぱりくっつき過ぎかしら。でも元僚艦同士の二人だから、実際はここまで仲良しなのでしょうね。仲良いことは良きことかな」

 

 すぐさま工廠開発部に行って明石に相談し、作業の合間でいいのならばと交渉して、こうして完成に漕ぎ着けた。電探・ソナー担当の天津風が心底複雑な微笑をしていたというのは夕張から聞いた話。

 

 また、完成したことを陽炎に報告すると、最初は驚きの表情をしたあと作品を見て、

 

陽炎

「まあ、いいじゃないの?これだけくっついてたらとても漁が捗りそうね!」

 

という感想を出した。陽炎の顔にも少々複雑な表情が浮かんでいたのだが、完成に狂喜乱舞している雷はそのかけらも気が付かなかったようだ。

 

 その足で雷は執務室に向かう。久々に大仕事をやり遂げた達成感(大体秋雲の作業だったが)を身にまとって一目散に駆け抜ける。やがて執務室に着いた雷は一呼吸をした後部屋のドアをノックした。

 

「司令官ちょっといいかしら?今日は司令官にプレゼントがあるわ!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 所変わって雷が司令官に大漁旗をプレゼントした同日、場所は岩川基地、駆逐艦寮第二棟、秋雲の部屋。

 作業が一息ついて身体を休めていた秋雲は突然陽炎に呼び出された。あのケチんぼ姉さんが奢ってくれるらしい。早速制服に着替えて集合場所の間宮前に向かった。

 

 やっぱり空調の効いた部屋はいい。椅子に背中を預け体内の熱を放出しながら秋雲は独り言を言うようにつぶやいた。

 

秋雲

「突然奢ってくれるなんて、どういう風の吹き回しですかい?」

 

陽炎

「それはこっちの台詞よ?アレだけキツイ中、良く描こうと思ったじゃない。見た感じあんまり余裕があるように見えなかったわよ?」

 

秋雲

「あー、さすが姉さん。長女の立場は伊達じゃないねえー。なーに単なる気分転換ですよ。ちょっと煮詰まってたから切り替えるのにちょうどいいと思ったんです」

 

陽炎

「へー……」

 

 正直なところ嘘は言ってないが、実際は『これはおいしい』と思ったことは言わないでおいた。たぶんまた小言を言われるだろう。

 

陽炎

「しかし、よく親潮からオッケーもらえたわね」

 

秋雲

「そこは黒潮姉さんのノリに負けたみたいです。面白そうやん!って」

 

陽炎

「あの子も相変わらずねえ……。でも黒潮親潮の基礎演習で忙しかったんじゃない?」

 

秋雲

「青葉さんに写真とってもらいました。……大丈夫です。ちゃんと口止めはしてありますから」

 

陽炎

「ならよし。ちゃんと危機管理できるようになってお姉ちゃん嬉しいわ」

 

秋雲

「きょーしゅくです」

 

 

 注文の品が届く。今日は伊良子最中(チョコアイスバージョン)とアイスコーヒーだ。少しカカオ多めのビターチョコレートを使ったアイスクリームはほど良く甘さを押さえ、一緒に頼んだアイスコーヒーと程よくマッチする。一緒に添えられた生クリームと混ぜればチョコレートの苦味がよりマイルドになり、物足りなくなった時に丁度いい。アイスクリームを包み込んだ最中は、中が解けて少しふやけたところを食べるのがたまらない。ここは譲れません。

 

 また、口に入れた瞬間からまるで季節が逆転したような感覚は、やはりアイスクリームの醍醐味の一つであろう。風呂上りのビールもまた悪くないのだが、どちらかといえば秋雲はこちらのほうが好きだ。

 

 

陽炎

「でも、今回は無理なお願いしちゃって悪かったわね。ほら、あんなに目をキラキラさせちゃって、むげに断ったら可愛そうじゃない?」

 

秋雲

「そういうところも姉さんらしいですよ。案外似たもの同士なのかも?」

 

陽炎

「完全に否定は出来ないけどね。でもやりすぎると甘やかしになっちゃうかもしれないわ。特に、あ・な・た・に・は」

 

秋雲

「あちゃー、こりゃまたご迷惑かけております!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 たっぷり糖分を吸収して戻ってきたときは、部屋はすでに蒸し風呂と化していた。残りの体力を振り絞り扇風機のスイッチを押したが、そこでほぼ尽きてしまった。後ろのベッドに進むまでにリボンを外し、上着と一体化したスカートを脱ぎ、Yシャツを脱ぎ捨てて、さすがに下着だけでは駄目だろうと大きめのシャツを着てようやくベットに倒れこむことが出来た。

 

 表面上は仕事を成し遂げてまだ余裕がある素振りを見せていたが、実際には限界寸前まで身体を酷使していて、さっきまでは陽炎に気づかれないよう平静を保っていたのだ。

 

 たぶん、今日はもう描けない。しかし、大仕事を終えたような達成感は、秋雲がこのまま眠りに落ちていくのを許してくれるようで、その表情からはここで眠ってしまう罪悪感を感じていないようだ。

 

 うつ伏せのまま、いよいよ本格的に落ちそうというところで、今まで喉まで出掛かっていた一言をぼやく。

 

 

秋雲

「なにも今作らなくてもねー……。8月下旬くらいならまだ余裕あったのに……」

 

 

もちろん、この心の嘆きに気が付いた者は誰もいない。

 

 

 

fin,

 

 

 

 

夏伯礼ってこんな人

 

hakurei-ka.hatenablog.com

 いやはや、まさか6000字を越えるとは…。